万年筆のこと
Montegrappaの万年筆を使い始めて5年が経った。書き味がいっそう滑らかでうれしい。時間が人のうえに積もっていく感じがする。
時候の便りの頃になるとこの万年筆を手に入れた時のことを思い出す。これに決めるまでの何ヶ月かの間、雑誌やインターネットで万年筆メーカーのコンセプトやペンの特性、デザインを日々リサーチしていた。鮮やかな色使いと洗練されたデザインが特徴的なDELTAの万年筆に憧れて、ほぼ Dolcevitaに決めていた。当時よく見ていたサイトはこちらです > PEN-HOUSE
それからひと月ほど経過した冬に、決心がついてようやく万年筆を扱う文具店に出向いたことを覚えている。手がかじかんで冷たかった。念願のDolcevitaを手に取って書いてみたところ、んー?なにかがちがう。うまくペンが進まない。なじまない。手が冷たいから?なんでか。
なんだかぎこちない、他のペンと書き比べてよいですか?お店の方に尋ねてみたところ、書き比べてもらわないとこわくて売れません、とこころよく応じてもらえた。かるく1時間はお店に居座って 6, 7本の万年筆を試させてもらった。そうしてさんざん迷ったすえに、ごめんなさい今日は決められないのでもう少し迷いたいとお願いをした。いつものことですね、という様相で「いいですよ。違和感がなく滑らかに書けるものを選んでください、高価なものだしね」そう気持ちよくおっしゃっていただいてホッとした。
万年筆のペン先は手作業で作られているそうだ。何本も書き比べて万年筆それぞれに個性があることを知った。書き手とペンの相性でこれほど書き味が変わるとは思っていなかった。
万年筆が自分の手と感覚にしっくり馴染むか。書いていてストレスがないか。ずっと持って書いていたいか。そうかー万年筆は道具だった。それまでわたしは万年筆をどこかファッションとして捉えていたのかもしれない。
今の万年筆を選ぶまでに意識したポイントは以下です。
- ペンの重さ太さが好みで、自分の手にしっくりくるか
- 好みの太さであっても重心が安定しないものがある。これは書いてみないとわからない
- キャップを付けるとさらに重心が変わる
- デザインは二の次、三の次
- 細工やデザインが凝りすぎているペンは往々にして書くと違和感があった
- 自分の筆圧とペン先の柔らかさの相関
- ペンを寝かせ気味に書く人は硬めのペン先で大丈夫かも。そうでない人は柔らかめの方がよい。これも試し書きしなくちゃわかんない
- ちなみにわたしはペンを立て気味で書くのでペン先のsweet point (紙とペン先のいちばんよい角度。業界用語でそう表現するらしい)を見つけるのに苦労した
- 書いていて楽しいかなじむか
書いてみないとほんとうにわからない。不思議なのだけれど、書いていて癒されるという感覚が万年筆にはある。わたしはこのペンを手にしてそれを知った。購入しようと決めてから半年後のことだ。
そんなわけで何本も試し書きを重ねた結果、上記ポイントをすべてクリアしたMontegrappaのEmblemaに決めた。Dolcevitaとは太さもデザインも真逆で地味だ。ただただやさしい書き味に心が落ち着く。
もしも万年筆をはじめて購入してみようという方がいらっしゃれば、ゆっくりと時間をかけて、何度も試し書きされることをおすすめしたい。
字を書く機会がすっかり減り、たまに万年筆を持つと文字が軽快に踊ってこまる。
字を書いていると背筋が伸びる気がするし、他のものを見たり聞いたりしなくてよい自分だけの時間が過ぎる。
上のインクは緑と紺碧を混ぜたような PILOTの「月夜」。ちょうど夕暮れから闇に続く途中の色。形容しがたい深い色味が気に入っています。
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