「死神の浮力」
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/07/30
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千葉さんをとおして幾度となく語られる「人間いつかは死ぬ」という言葉は、夜わたしたちが「おやすみなさい」を言うのと同じような穏やかな物言いで表現され、悲観的とも楽観的ともつかない。不慮の事故で友人と身内を亡くしてからなんとなく身近に感じる死を、この物語でも当然そこにあるものとして捉えらていて、その様子に安心感をおぼえる。死の直前にこんな風変わりでへんてこな立ち会い人(死神であるところの千葉さん)が側にいてくれるなら怖くないななんてクスっとできる。
死は怖いものではない。たぶん。そう思えるようでありたい。
6つめの章 "6 DAYS"で 山野辺と病床の父が会話を交わす場面が印象的だった。
父が息子である山野辺に向けて「先に行って、怖くないことを確かめてくるよ」と語る。何のことを言っているのかわからない山野辺に向かって亡くなる数日前に父はもう一度話す。「大丈夫だからな」「怖いところなんかじゃないからな」。
渡辺一夫著書より引用がある。
我々は生きていますから、いずれ死ぬわけであります。 我々は生きています。そして、刻々と死へ近づいてゆきます。 まず、この不幸を凡人は凡人ながら忘れぬようにしたいと思います。
この後で、ローマの詩人ホラティウスの言葉を紹介するのだ。日々を楽しめ、と。
最期お父さんはそう息子に教えたいと思ったのだなー。この箇所は何度読んでも涙腺が緩む。
前作「死神の精度」そして「死神の浮力」。どちらの物語の登場人物も、自分以外の人間が勝手に自分の未来を決めてしまうことをよしとしない。悲しみや切なさの中にあっても、自分のこの先は自分で決めたいと思い、行動する。 それがとてもいい。
ささやかですが最近自分の行動に「わたしが決めていまこうしている」実感がもてている。結果がどうであれ平和だ。自分がどう感じるかだって自分が決めればいい。感情のコントロールはなかなかむずかしいけれど、それでも自分のこの先の行動は自分が決められるのだと思うと清々しい気持ちになる。「死神の精度」のラストシーンを思う。
- 作者: 伊坂幸太郎
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