片足を既知、もう片足を未知において

4月26日が現職の最終出社日であった。
夕刻に設定したいくつかのMTG以外は、後片付けとご挨拶で1日が過ぎた。
4月以降は週2~3日の出社だったから現職を離れる心の準備はできていた。そのはずなのに、最終日はもう二度と中の人としてここに居ることはないのだなぁと寂寥感が増した。

現職では実に数多くの経験と感情を味わせてもらった。
選考時のことはよく覚えている。当時読んで感銘を受けた「フェルマーの最終定理」の感想を延々とお話した。登場する数学者たちそしてフェルマーの最終定理を解いたアンドリュー =ワイルズ の生き方がどれほど自分の琴線に触れたかを語り、気がつくと選考開始から1時間が過ぎていた。それでもjkondoさんは、それでそれで?と身を乗り出して私の話に耳を傾けてくれたのだった。自分がどういったことをしてきてどんな考えの持ち主で、最後に「新しい価値を生み出す人を応援したいのです」そう伝えた。

入社後は混乱と怒涛の毎日が待っていた。
人事部が立ち上がり、ただしアサインされた自分は未経験で、人事なのに人事職とは何なのかを知らずにいた。これはまずいぞと、人事に関する書籍を購入して自主学習するのだが、書籍に書かれている内容と当時の実務はずいぶんかけ離れていた。今となれば笑い話だ。
技術やインターネットに疎い自分にとって、まわりの社員が何を話しているのかわからないことが頻繁にあった。聞いたことのない単語が飛び交う。指示された内容がまともに理解できない自分が情けなかった。テキストチャットで、意味のわからない言葉を何度も聞き返してはピントのずれた仕事をして失敗し、それでも根気強く自分に関わってくださった同僚には心から感謝しています。

技術が好きで、人びとがよく生きるための新たな価値をつくりだす場にいたいという気持ちが軸にある。
技術が好きだったから、技術者の視点を知りたいと考えて、エンジニアの同僚にRubyを教わり文法を覚えた。やり始めると楽しくて、動くものは作れなくとも開発者の思想や視点をほんの少しずつ理解できるようになったと思う。のちにVimを覚え、この自分がLinuxコマンドをたたけるまでになった。デザイナーさんとは会話を通してサービス開発やデザインの思想哲学について何度もレクチャーを受けた。インターネットビジネスがわからない教えて!と、当時の営業部長に教えを請うた。すべてが体当たりだ。
いつだったかインターネット文化やコンテキストに馴染めない自分が悔しいと吐露したことがある。そういうひとが人事だからよいのだと言ってくれた同僚の言葉は今でも忘れられない。

現場業務は長いこと1人であったが、同僚の協力を得て少しずつチームとして仕事ができるようになった。インターンシップやイベントをきっかけに現職を知り、入社に至った同僚がいま大活躍されている。これ以上の喜びはない。
自分の業務進行は相変わらず不恰好で体当たりで、経営陣を始め同僚には随分と迷惑をおかけしました。ぜんぜんスマートじゃないし回り道ばかり。上司と部下1人ずつだった部が、メンバが増え、チームとなり、今までなんとかやってこられたのは、優秀な同僚とメンバの助けがあったからだ。
これほどやさしくてよいひとが集う組織はそうない。同僚が楽しく元気に働ける組織づくりに関われることが私の喜びだった。
現職のミッションはこうである。

「知る」「つながる」「表現する」で新しい体験を提供し、人の生活を豊かにする

自分は、Webサービスだけじゃなく、はてな社内でリアルな体験を通してこのミッションの恩恵を被った。自分の人生にとって大変有意義で豊かで楽しい時間をたくさん過ごさせていただいた。知るとは、つながるとは、表現するとはいったいどういうことなのか、毎日様々なシーンで考えた。アウトプットを大切にする文化を通して、アウトプットとは社会や他者に対するメッセージなのだと教わった。

少しずつ技術基盤や組織基盤に関心が強くなり、自分が現職で関わることの意味をよく考えるようになった。さらに組織基盤にコミットしたい、知らないといけないことがたくさんある、さらに視座を高めなければならない、という思いが今回の決断のきっかけです。


最終日の夕刻にメッセージボードをいただいた。個別にいただいたメッセージもうれしかった。ありがとうございます。
心のこもったメッセージたちに、今までの記憶がどっと押し寄せて泣いてしまった。
「ともみーの笑顔」や「安心感」というワードがいくつか目についた。そうかみんなに笑顔を向けることができていたのだな〜。現職にポジティブな価値をもたらすことができたのだろうかとずっと不安でいたので tomomii=笑顔と捉えてもらえたことがうれしい。
大変だな孤独だなぁと感じることがあっても、いつも必ず誰かに助けられて毎日楽しく働かせてもらえた。本当に幸せでした。

次の組織でも大きなチャレンジが待っているだろう。はてなの皆さんに恥ずかしくないよう自分の持ち場で笑顔で楽しく働きたい。
片足を既知、もう片足を未知の世界において、両足のバランスをうまく取りながら先に続く長い道を歩いていく。

はてなのファンであることに変わりはありません。これからもどうぞよろしくお願いいたします。