ケーキを食べてパティシエから教わったこだわりと発想
深夜の空腹バトルでわたしの気持ちを紛らわせてくれるものといえば美食画像である。
空腹に対抗して美食画像やおいしいレビューを見ているうちにまあまあしあわせな気分になってきて、自力で無理やり明日への希望につなげる。起きたらチーズトーストを焼いておいしいカフェオレを淹れる。決めた。
こういった妄想アプローチは等価交換の考えに沿っているように思える。目と心の保養をするだけで平和的解決ができる点で気に入っている。このエントリをポストする頃には睡魔がやってくるだろう。
いつものようにクローズドに記録してある自分美食ログを眺めていたら、昨夏に訪れたアサンブラージュ カキモトでのひとときを表の場に書いておきたいと思った。以下に記します。
- アサンブラージュ カキモト (ASSEMBLAGES KAKIMOTO)
お店は静かな住宅街にある。目立つ看板はないためうっかり見過ごしてしまいそうだ。店内はシックな色調でカウンター席のみ。濃茶と黒、白で統一されている。入ってすぐにオーナーさんがこのお店で表現したい世界観を感じ取ることができる。
期間限定ですとおすすめしたもらった桃のタルトはタルトペーシュという名で、桃の下に無花果が散る凝ったものだった。セットで頼んだアイスブルーティはふんわりと花の香りがして外の暑さを忘れさせてくれた。
桃のタルトを一口いただくとそれはとても上品な甘さでふあー!
タルト生地はどちらかというとパイの食感に近く、アーモンドの香ばしい風味がした。桃と無花果の重厚な甘みと生地のさくさく感が絶妙で、ブルーティを飲むと花の甘い香りに満たされた。たくさんの感覚を満喫しながらしばらくぼうっと過ごした。
時間をかけて食べ進めていると、どうですか?おいしいでしょ?とパティシエの柿本さんが話しかけてくれた。一人客だから気遣ってもらったのかもしれない。すごくおいしいですと答えたら、そうでしょ〜と言って「このタルトの生地はバターじゃなくてオリーブオイルを使っているんですよ」と教えてもらった。
だからいろんな香りがするんですね、と伝えたらこんなことをお話してくださった。
- バターを使うとせっかくの桃と無花果の香りが台無しになってしまうこと
- バターは重くなりすぎて夏のタルトにはオリーブオイルの方が向いていること
- オリーブオイルを使ってタルトとして成立させるのはそれなりに難しいこと
- 桃と無花果は農家さんと契約をして取り寄せていること
- 桃の季節はもうすぐ終わるからそろそろこのメニューは終了すること
- 自分が美味しい、よいと思う食材しか使わない。道具もしかり
- 甘さの質と分量と香りは重要なエッセンスであること。どれも過ぎちゃダメであること
「次にきてもらえたら、アサンブラージュ(a)を食べてみてください。あっちは上質なチョコを使っていろんな味がするように作っています」
そうおっしゃったので、その場でおかわりすることにした。
一番近いスイーツを当てはめるとしたらチョコレートムースかなあ。でも今までたべたどのチョコレートムースよりも繊細だった。柿本さんのとおり、いろんな種類のチョコのビターな香りが階層になっており、一口いただくごとにいろんな味と香りがした。下段はすこし酸味のあるムース。それがビターな風味と重なって後味はさわやか。口の中でぜんぶの味が溶けた。こんなに複雑でおいしいレシピをどうやって考え出すのかと質問してみたら、新しいメニューの発想について聞かせてもらうことができた。
- 食材をよく知っていることがだいじ。フルーツや野菜だけじゃなく、オリーブオイルもバターでも粉だって玉石混交。よいものを知っていること。そして活かし方と相性。組み合わせを知っていることもだいじ。その研究はしている
- それをわかったうえで何を作るか。自分はプロとしてお客さんにおいしいものを食べてもらわないといけない
- おいしい食材でも組み合わせによって活きなくなることはよくある。自分もいまだに失敗作を食べてはがっかりする。食材にも申し訳ない
- よい質の材料をどう活かすか。それができたら組み合わせと分量。最後に見映え。お客さんにまた来たいと思ってもらえる全体感。それに尽きる
- ケーキは生活必需品じゃない、生活必需品じゃないものを売るお店にどうやって足を運んでもらうか
- 京都はおいしいものやお店が多い。激しい競争。上質が求められる。うちに何を求められているか?は考えないといけない
- あれこれ言っているけど結局は自分のおいしさへの感覚とお店の全体感の追求。古びてランクを落とさないように
- 秋は楽しみな季節。食材がおいしい。新メニューのアイデアはまだない、いつもひらめき。メニューは最初からそんなに考えない。その時のよいものを使ってひらめきにまかせる
- ひらめいて手を動かしてトライアンドエラー。ひらめくには日々なにかやっていないといけない。季節ごとの新作は毎回その連続。同じものは出さない
ふたつめのケーキを食べ終えてごちそうさまの挨拶をしたら「そんなに楽しそうに食べてもらえると作り甲斐がありますわ〜」笑ってそんなことを言われた。ケーキのおいしさはもちろん、柿本さんのもの作りに込められた思いがしあわせだった。お客さんや自分や自分のお店のためにケーキ作りへの気持ちが込められていた。こだわりを追求すればするほど前向きな欲が出てくるのだろう。アインシュタインが同じ意味合いの言葉を残している。
おいしいケーキを作るために食材はこれにしよう、こういう層のお客さんに味わってほしいからお店はこんな雰囲気にしよう。道具や食器はこれで、ケーキに合うおいしい紅茶を淹れて、お客さんの表情が見渡せるカウンターにしよう。グラスは美しい状態を保つために熱湯に通して乾燥。そして余裕があれば季節の花を飾って..。お店で使われているカトラリーはCutipolだった。
好きだなーいいなーと思うものを知り、そこにいて楽しいなしあわせだなーと思える時間や場所に身を置いていたい。そのためには作り手の美学や価値についてちゃんとわかる自分でいないといけない。知ることがまだたくさんある。
以下はつい先日いただいたピスタチオのケーキ。ピスタチオの香りを楽しみながら食べるうちに中からフランボワーズが再び登場する。上品な甘さで繊細な味。ピスタチオとフランボワーズのケーキ
ああーしあわせ。そろそろ睡魔にきてほしい。4:50am. まだ夜。