チェス盤という海に深く潜り、駒で語り詩を織りなす青年の軌跡を読み終えて、チェスの世界をちょっと垣間見たくなりました。
『猫を抱いて象と泳ぐ』の中で語られるチェス駒たちの個性と持ち味はこうです。
この頑丈そうな塔の形をしたのがルークだよ。縦と横に好きなだけ進める。斜めには動けないけど盤の角っこにいる時でも、中央にいる時と同じくらい効果的に働ける。
これはね、斜めに動くビショップ。キングとクィーンの助言者なんだ。僕の一番好きな駒だよ。斜め移動の不自由さの中に、独特の自由さが感じられるんだ。
で、馬の格好をしているのがナイトだ。こいつは不器用ないたずらっ子、っていう感じだなあ。敵味方の駒を飛び越えてゆくくせに、横の升に一つ行こうとしたら三手必要なんだよ。頭の固い人にはなかなか使いこなせない。でも上手な人が使えば、天空を駆け巡るペガサスになれる。僕はまだとってもそこまではいかないけどね。(略)
p.74「ポーンはこれです。チェスの駒の種類です。いちばん小さくて、か弱い駒ですが、決して後退することなく敵陣に向かって一歩一歩前進します。その控えめでありながら着実に使命を果たすポーンにちなんで命名された猫なんです」
(主人公は愛猫にポーンと名付けている)
p.338
叙情豊か。ちなみにビショップの語源は『象』なのだとか。
チェスを嗜む同僚にお願いをして幸いにもルールと駒の運びを教わることができました。
そう、当然ですがチェスの駒って自立して動きます(将棋の駒は寝ながら動きますね、寝ながら動けるっていいよね)。
それだけでなんとなくアクティブな印象を受けるし、将棋でいうところの「歩」の駒 ポーンは初動に限りそれぞれ2マス進めるアグレッシブさを備えています。彼は敵陣最奥地まで達すると、見た目はポーンでありながらクィーン(最強のラスボス駒)として振る舞える強者に転身します。その様子にどこか西洋的な大胆さを感じ、将棋で慣れ親しんだわたしは目から鱗の斬新さをおぼえました。
チェスには一手が駒の生死に直結する刹那的要素も感じます。些細なミスや迷いから駒を相手に獲られれば二度と再生の道はありません。討ち合い?戦争?を想起させるものがありました。
先日「クィーン&ルーク落ち/待ったアリ」のハンディキャップ付でチェスの対局をしてもらう機会を得ました。よちよち駒を動かすわたしをじっと待ちながら待ったを赦して指してくれた同僚には感謝しています。駒の行く先を決める時には思った以上に勇気が必要でした。ナイトとビショップのいたずらっこな動きが好き。
最後にもらったアドバイスがとても印象的だったなー。
- 盤上を広く見てミスを極力抑えることが大切
- 手前の駒(ポーン)には前に出てもらう。自分のためにも、後ろに控える駒のためにも
- 奥に控える強い駒(ルークやビショップ、クィーン)にはのびのび動けるスペースを与えてあげよう
- よい風が吹けば(タイミングがくれば)一気に攻めよう
駒の持ち味を活かしながらどう進むとよいかを考えるのが楽しい。